第二章 歪んだ景色

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 高校を中退した一臣を何とか奮い立たせて大検を受けさせるようにしたのも妻だった。元来明るい性格の妻は、どんな時にも前を向こうとする。結局、大検に合格して大学に入学した時の妻の喜びようは今でも忘れない。しかし、それも長続きしなかった。再び中退してからは自宅に引きこもりがちになり、今に至る。  その頃、太一郎は日々仕事に追われていて(実際に仕事が忙しかったことは確かだが、それを理由に息子のことを妻に押し付けていたとも言える)、自分から息子のために動いたことはなかったのだから、自分に妻を責める資格などないとわかっている。そんなことを考えていると、口の中に嫌な苦い味が広がる。  幸い、娘のほうはごく普通の人生を歩んでくれて、今では結婚して孫までいる。そのことだけが救いである。  再び階段を下りる音が聞こえる。そして、今度は玄関のドアの開閉音が聞こえた。またパチンコに出かけたのだ。漠然として未来への不安が色濃くなっていく。  息子が出て行ったことにホッすると同時に激しい怒りも込み上げてくる。カーテンをばさりと揺らして風がひとつ入ってきた。いつの間に冬枯れた青空は雲に覆われていた。    大学を中退した一臣は、たまにアルバイトをしても長続きしたことはなく、すぐに辞めてしまう。そうしたことを何度か繰り返した後、自宅に引きこもるようになってしまったのだ。そんな息子にも、妻は食事や洗濯といった身の回りの世話をやいていたし、自分がパートで働いた給料の中から小遣いもやっていたらしい。そうした事実は、太一郎が定年退職して、ほとんどの時間を家で過ごすようになってわかったことだ。  その他、それまでわからなかった息子の行動もわかるようになった。一臣はほとんど部屋に引きこもっているが、ごくたまに部屋を出る。その場所がパチンコ店だということがわかったのは、近所に住む老人が太一郎に近寄り耳打ちしたためである。老人からすれば親切心で言ったのかもしれないが、言われた太一郎にすればわが家の恥を指摘されたとしか思えず、頭の中がカッとしたのを覚えている。  もう限界だった。心の深いところが震える。これまで何回も何回も考えたことを実行するしかないと決意する。幸い、妻は夜まで帰らないと言っていた。息子はいつものようにあと、2時間以内には帰ってくる。それまでに準備を終えておかなければならない。
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