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まっしろ
ぱち、と泡がはじけるみたいにして、あたしは気がついたの。
そういうことは珍しくないからべつに驚かなかったけれど、目をひらいた先にあった景色には、びっくりしてしまったわ。
だって、だって全部まっしろだったんですもの。上も下も、右も左もまっしろ。びっくりでしょう? おまけにあたしもまっしろみたい。手をのばしてみても何も見えなかったわ。足も体もないみたいで、きっとまっしろに溶け込んじゃったのねって、ちょっとだけ怖くなったの。
でもあたしは、これが夢だって分かってたから。冒険する気で背すじをしゃんとしたわ。そうすると、まっしろなのも何だかおもしろく思えてきたの。
さて、これからどうしようかしら。そう思っていたら、ふ、とウチで飼ってる猫が足元をすり抜けて行くときみたいな感じがして、あたしは振り向いたの。
うしろにまっくろな人がいるのを見たときには、フカクにもさっきよりもっとびっくりしてしまったわ。
その人はまっしろな紙にぽつんと落ちたインクのシミみたいにまっくろな人だった。髪も目も、着ている服も。肌だけは白かったわ。背比べをしたらきっとあたしと同じくらいかしら。とにかくそんなまっくろな人が、あたしの方をじぃっと見つめて。あたし、なさけないことに、ちょっと怖気づいちゃったの。黙っていたら、まっくろさんの方が急にこう言ったわ。
「君、名前は」
ハテナマークがついてないような、ぶっきらぼうな調子で。この子、男の子かしら、女の子かしら。
あたしはあわてて答えたわ。
「悠莉。悠莉よ」
「ユウリ」
まっくろさんが繰り返したとたん、キセキみたいなことが起こったの。
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