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「……そうね、それくらいの権利は認めてあげるわ」
否。あなたが私達の復讐を受けるのは権利ではなく、義務だ。
憎しみを込めて目の前の男を睨み付けると、自然と手に力が入っていく。空間に貼り付けられた破片は萌葱の意思に従い、鋭利な先端を龍輝の方へ傾ける。
狙いを定めた無数の破片は、主の瞬きを合図に、龍輝目がけて飛んでいった。
破片が飛んでくるのとほぼ同時に、龍輝は地面を滑るように走り出す。
銃弾とは程遠い遅さで、しかし常人が避けるには厳しい速さで飛ぶ破片は、頭上を掠め、壁や床に突き刺さる。眼前に迫る破片をナイフで弾き、詰めた距離と勢いで萌葱に刃を振るった。
避けられるのは織り込み済みだったのか、萌葱は一歩後退りして刃の軌道から逃れた。しかし振るわれた刃は逃がすまいととんぼ返りし、地面から突き上げるように空を切った。
「ぐっ……」
顔面の負傷を避けようと上を向いたのと同時に、萌葱の顔のすぐ横をを何かが通り過ぎる。
気が付けば萌葱は壁に押し付けられ、喉元に小さいナイフを突きつけられていた。
「…生き残りの数とは別に聞きたい事がある」
土と埃と獣の臭いが鼻をつく。
目の前には狩猟ナイフを突き立てた龍輝が立っていた。
水底に沈殿していた憎悪が舞い上がったかのように澱んだ双眸は、冷たく萌葱を見下ろしている。
「そんな不可思議な力を持っているなら、何故今になって現れた?それで僕を殺すのならもっと昔でもよかったはずだ」
落ち葉に隠れて姿を消した事と言い、萌葱が引き起こしたのは物理的にあり得ない事象ばかりだ。
これらを汎用的な言葉で表すならば、『超能力』というのが恐らく妥当だろう。
小説の中にしかないものだと思っていたそれが実在して、更に敵が使ってきたのだから驚きだ。
「…別に、生まれた時からこの力を持ってたわけじゃないわ」
自分を睨む双眸に抵抗するように、萌葱は顔をしかめた。
今までのように頭ごなしに拒否しなかったという事は、質問に答えてくれるようだ。
「何年か前、私はある実験に参加した。この力を手に入れたのはその結果よ」
力を自在に操れるようになるまで時間を要したとだけ言い、それ以上質問に答えるつもりはないという様子で黙り込んでしまった。
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