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答えてくれたと言えど、仔細に教えてくれるとは端から期待していなかったし、そこまで関心もない。
「実験とやらに参加したのも、僕を殺す為か」
「そうよ」
「くだらない」
返答を一蹴すると、興味が失せた様子で突きつけていたナイフを喉元から離し、狩猟ナイフも壁から引き抜いて持ち直した。
束縛から解放された萌葱は血が滲む腹を押さえ、気に食わないとばかりに龍輝を睨みつける。
「情けでもかけたつもり?」
「そんなものかけても何の得もないだろう」
見下すように溜息をつき、穴のあいた天井を見上げた。直接差し込む秋の柔らかな日差しは木々の葉で色を付け、小屋の中を自然に明るくする。その光さえ受け入れない瞳は小屋の中をぐるりと見渡してから、軽く素振りした後の狩猟ナイフを視界に収めた。
萌葱は龍輝の一連の動きを警戒しながら観察し、ポーチから釘を取り出した。
「今私の喉を切らなかった事を後悔するといいわ」
掴めるだけ掴んだ長い釘は萌葱の手を離れ、龍輝を取り囲んで静止する。
一連の動きを気だるそうに見ていた龍輝は深い溜息をついた後、宣言した。
「僕はまだ死なない」
何故なら。
今度は何の合図もなく、取り囲んでいた釘が龍輝めがけて集束した。
釘を撒き散らした音がけたたましく響く。
落ちた釘の間を二人の足が交錯し、いくつかは靴に刺さっている。
「お前には殺意が足りない」
伸ばした龍輝の腕にも釘は刺さっていた。しかし痛みを厭わず突き出した狩猟ナイフは、迷いなく萌葱の腹を深く抉っていた。
「…私では、役不足だったと、いうわけね」
立つ力も気力も奪われた萌葱は膝をつき、前のめりに倒れこんだ。
龍輝には見抜かれていたのだ。力を得た経緯を話した時点で、同じ故郷の人間として見てしまっていた事を。
鬼子に見せたほんの少しの慈悲が、致命的な隙を与えた。
萌葱は顔を上げ、鬼子と呼ばれていた男を見ようとした。しかし顔を見上げるだけの力は入らず、視界には膝から下が収まる。
「そろそろ終わりにさせてもらおうか」
そのままでもじきに死ぬだろうが。
龍輝は狩猟ナイフを握りなおし、痛む腕をかばいながら両手で持ち上げた。
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