39人が本棚に入れています
本棚に追加
十数歩離れた先に、龍輝より背が高い男が立っている。
真っ先に目を引き付けたのはその髪の色だった。焦げ茶色に染まっている髪は毛根に近づくにつれ白く色が抜けている。生まれつき白髪なのか、あるいは白髪になってしまう程の出来事が彼にあったのか。
どちらであるかは問うまでもない。
黒い半袖パーカーに濃紺色のジーンズという配色からか、髪の白さが際立つ。半袖の下から見える腕は細く、室内育ちの不健康ささえ感じさせる。
右目の下に残る十字の傷跡と、狐のようにつり上がった二重瞼の目は、思春期の少年の一部が没頭するセンスとクールな印象を持たせる。
「……二人目か」
龍輝を鬼子と呼ぶのは村の人間しかいない。
何も言わず歩み寄ってくる男は静かに、かつ素早く、懐から得物を取り出して構えた。
迷いなく差し向けられたそれの全体像を見るまでもなく、龍輝は草むらに飛び込んだ。
直後、乾いた銃声が短く響き、蝉の声が刹那止み空を飛び回る。
男は細い目を更に細めて舌打ちし、右手に握った銃を構えたまま獲物を探した。
最初のコメントを投稿しよう!