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背の高い雑草は地面を覆い隠して視界を妨げる。リボルバーでは無闇矢鱈に撃つ事もできず、龍輝が姿を現すのを待つしかなかった。声を潜めていた蝉達が再び鳴き始め、滲む汗が男のこめかみを伝い落ちていく。
「―そこか!」
近くの草が揺れ、反射的に銃口を向けると同時に何かが飛んできた。それは空間を裁つように一直線に飛び、男の腿を掠めてそのまま木に突き刺さる。発砲の反動と足の痛みでよろけて木にぶつかった。
合唱を始めたばかりの蝉達はどこかへ飛び去り、周囲は再び静まり返る。
木に刺さったそれは小さな投擲ナイフだった。
「中途半端に銃の使い方をかじったくらいで、僕を殺せると本気で思っていたのか?」
ナイフが飛んできた場所から、のそりと龍輝が顔を出した。
「それ以前に、僕を殺そうという意思がない」
行動とは裏腹に、男の眼差しはひどく怯えた様子だ。
震えた手から銃が滑り落ち、その音に、更にビクリと肩を震わせる。
「答えろ。お前に殺意も力もないなら、何故ここに来た」
龍輝の顔とハンモックを交互に見やる男の目線は、時折子猫の様子を気にかけているようにも見える。だが、この状況で自分より子猫を気にする余裕などあるはずがない。
様子がおかしい事に気付いた龍輝が振り向こうとした時、男は慌てて口を開いた。
「俺は―」
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