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4 - Recollection (1)
「ありがとうございました」
店員から釣銭を受け取り、書店を後にする。
人間の相手は勿論、村より文化が進んだ環境に上手く馴染めない龍輝は、基本的に街が苦手である。それでも年に数回、生活に必要な物を買いに、街まで足を運ばなければならない。
高くなった空を見上げて目を細めると、太陽の傾きから、日没が早くなったのが分かる。森で見るのとは違う空を瞼の裏に残し、龍輝はアスファルトの道を歩き出した。
商店街を抜け、公園の脇に置かれた箱に立ち寄った。透明な窓の向こうに並ぶ見本の中から、適当に目に付いたお茶を選んでボタンを押す。これが自動販売機という物で、飲み物を買う手順を覚えるのさえ苦労した。
買い込んだ荷物を下ろし、空いた手で缶のプルタブを開けて一息つく。公園の方に目をやると、広場でボール遊びをする子供達が目に入った。
足で地面に線を引き、線の内側にいる少年が投げたボールが、向こう側にいる別の少年に当たる。当てた少年はポーズをとって喜び、当てられた少年は悔しそうに線の外側へ出て行ったが、二人の顔は笑っていた。
幼少期に経験するそれらの意味を、龍輝は知らない。
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