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村の外の話は龍輝の好奇心をくすぐり、外の世界への憧れを抱かせた。
「ところでお前、学校は行かねえのか?平日の昼間にガキがこんなところいるなんてずる休みする時くらいなもんだぞ」
男が尋ねると、龍輝の顔から笑みが消えた。
「僕はこせきがないから、学校に行っちゃいけないんだって」
龍輝の言葉が理解できず、戸籍がない、という意味を解するのに一瞬の間を要した。
「戸籍がないって…お前、父ちゃんと母ちゃんいねえのか?いやいなくても親戚とかそういうところに」
「お母さんはいるよ。お父さんはいない」
「…そいつは聞いて悪かった」
ううん、と首を振り自ら話を続ける。
「鬼子に戸籍も親もいらない、死して然るべきものだって。でもそうしたら村に訪れる災厄を受ける器がなくなってしまうから生かされているって、村の人が言ってた」
「それじゃ生贄じゃねえか」
「いけにえ?」
「今お前が言ったとおりだよ。要するに、村の連中は自分達に災いが来てほしくねえから、自分達に来るはずの災いとか悪い事を全部お前になすりつけてんだろ?」
同じ人間なのに、と言いながら男は龍輝の頭に手を置いた。
「いいか、お前は村の奴らに復讐する権利がある。他のお前と同じくらいのガキ共が仲良く遊んで学校行って人として扱われるのに、お前だけ人じゃねえだの鬼子だの言われて、挙句に生かされてるなんて言われてよ。俺は村の事なんか知らねえけど、はたから見てそんな環境は異常だ」
龍輝の脳裏に、自分を蔑んだ目で見ては石を投げつけてきた子供達の姿が浮かぶ。
その度に抱いた感情は胸に燻り、取れない憎悪となってこびり付いている。
「…僕、あいつらに仕返ししてやりたい」
抱え続けていた黒いそれを、初めて明確に意識して吐露した。
口に出した事でそれは更に力を持ち、龍輝の内で急速に膨れ上がる。
男は黄ばんだ歯を見せてにやりと笑うと、龍輝の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「いい目だ。俺も手伝ってやるよ」
その言葉に後押しされ、幼い龍輝は力強く頷いた。
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