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村には一つの神社があった。
竜飼の姓を持つ家系が代々神主を務め、村に絶対の権力を持つのもまた、竜飼の家系だった。
「…今日で何日目になる?」
「四日目だ。よく水だけで生きているもんだ」
「鬼子はあれくらいの事では死なんということか」
「死なれては困る」
「恐らく……が何か与えているんだろう。誓約を違えたか」
大人達がひそひそと話し合っている部屋を横目に、幼い蒼鵞は家の扉を開けた。
神社は村からいくらか離れた場所にある。
村に続く一本道の途中、中間地点の目印になる倉庫へと立ち寄った。そこは、倉庫とは名ばかりの檻と言っても過言ではない。
蒼鵞が教わった事が正しければ、そこは古より罪人を閉じ込めておく牢獄として使われていた。
「(この村に罪人なんて、いつだって一人しかいないじゃないか)」
持ち出してきた鍵で錠前を開け、重い引き戸の取っ手を両手で引っ張る。
扉が砂利を磨り潰す音と共に、かび臭い空気が鼻をつく。薄暗い室内に電気はなく、天井付近にある鉄格子から差す日光だけが光源となっている。入り口の引き戸から目に入る格子の向こう、一際影の強い部屋の隅でそれは横たわっていた。
「起きてるか」
地べたに転がり、背を向けているそれは幼い龍輝だった。
蒼鵞と同い年程にも関わらず、土で汚れた服と痩せた素足がひどくみすぼらしい。
かけられた声に対し、龍輝は億劫そうに上体を起こすと、暗闇によく似た淀んだ目で蒼鵞を見た。
空腹で喋る気力もないのか、誰かが自分を訪ねる理由はいつも決まっているからか。格子の向こうに座る龍輝は口を開かない。
初めから返答を期待していない蒼鵞は、外を見回してから引き戸を閉めた。
「(確かこの辺りに置かれたはず…)」
龍輝の様子を気に留めず、隅に置かれた踏み台を引き摺って天井付近の鉄格子まで持っていく。
倉庫の窓にあたる鉄格子の位置はそれほど高くなく、子供の中でも比較的背の高い蒼鵞が踏み台に乗り、爪先立ちをしてようやく手が届く。蒼鵞は窓の縁を手で探り、目的の物を掴んだ感触を確認すると踏み台から下りた。
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