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草をかき分け奥へ奥へと進み、少年は一棟の廃屋を見つけた。
「やった!見てみろよ、これきっと村の家だ」
紅葉に紛れて建つ木造の平屋は、十年よりもっと昔の建築様式と推測される。いたるところで腐敗が進み、場所によっては踏み抜いてしまいそうな脆さがあった。
少年は嬉しそうに廃屋に駆け寄り、扉の外れた玄関から中を覗き込んだ。
入って目の前には骨組みが剥き出しになった土壁。所々に動物の足跡が残っている板張りの床は土と埃が積もり、少し風が吹いただけで玄関中が白くなりそうである。靴を脱ぐ場所の隙間には雑草がところどころに生え、隅は蜘蛛の巣が土や埃にまみれていた。正面には色褪せてカビの生えた玄関マット、左手には扉が開きっぱなしの靴箱と電話台に置かれた黒電話があり、右手の壁に沿って奥へ続く廊下がある。
「すげえな、生活感が全部残ってる」
「もう帰ろうよ。何か出てきたらどうするの?」
「だから何もいないって。心配性だなあ」
ほら、とはしゃぐ少年に手を引っ張られて玄関の中に立たされた少女は部屋の奥に目がいった。
奥に見える廊下の途中には、事件の残酷さを物語る血の跡がいたるところについている。確かにそこで人が殺されたのだと想像してしまった少女は、恐怖を振りはらうように少年の背後へと逃げ隠れた。
「何だよ、こんなのどうってことないから大丈夫だって」
少年は少女を宥めるつもりで声をかけたが、少女は隠れたまま前へ出てこようとしない。
「違うの…。そうじゃなくて、奥…」
「奥?」
怯えきった少女の警告で少年が廊下の奥に目を凝らすと、二人の立つ入り口から続いている廊下の先、勝手口の壁に寄りかかるようにして一人の男が立っているのが見えた。フードを目深に被り、更に包帯で顔を隠しているその姿は、明らかに異質な雰囲気をまとっている。
「なんだあの人…顔なんか隠して」
「は、早く戻ろうよ」
「そうだな、戻ろう。あの人何かおかしい」
不審な人物から遠ざかろうと踵を返し、二人は帰ろうとした。
引き返すタイミングがもう少し早かったなら、無事に帰ることができたかもしれない。
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