1 - Again

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1 - Again

 「ねえ、本当にこんなところに人がいるの?」  「いるに決まってる。見た奴がいるんだから」  歩くにつれ遠ざかる高速道路の音に、少女は不安を募らせていた。それとは対照的に、草むらをかき分け前に進んでいく少年の瞳は好奇心に溢れている。  山道から外れたこの樹海には昔、小さな村があった。十年前に起きた事件で廃村になり、地図からその名前を消されている。  「でも何年も前になくなった村でしょ?村がなくなった理由って確か…」  「村の人が全員殺された事件だろ?」  「もし村の人達を殺した犯人の幽霊とかいたら…」  「いるわけないじゃん、幽霊とか。深く考えすぎだって」  根拠もなく自信満々に否定した少年は、怯える少女の手を引っ張り前へと進んでいく。  二人はろくに準備もせずやってきたのか、山道を歩くには向かない格好をしている。一歩進む度に上着の装飾や鞄につけられたキーホルダーが枝に引っかかり、歩行を妨げる。気付かず千切れたのか、いくつかはキーホルダーの金具部分だけが鞄に残されてカチカチと音を立てている。  村の名は、水神村。  十年前、音信不通を心配してやって来た隣村の住人が見たものは、地獄絵図そのものだった。  誰もが目を覆うの凄惨さに、当時では異例の厳しい報道規制が布かれた。  死亡者は村人全員と、男が一人。  おびただしい量の返り血と手にしていた日本刀から、村人ではないその男による犯行であったと断定されている。  村の衰退状況も相まって、水神村は廃村となり地図からその名前を抹消された。  月日が流れ、事件の記憶が忘れられ始めた頃、周辺の村から不吉な噂が流れるようになった。  噂の内容は様々あるが、その基本はいたって単純だった。  「水神村に怨霊がいて、近付く者は祟られる」
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