2 - Telekinesis

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2 - Telekinesis

 伐採用具や狩猟道具を収納していた山小屋も、今では立派な廃屋の仲間入りをしていた。  斜めについたトタン屋根は苔むして、外壁にもこびり付いている。四畳半の手狭な内部は土間のような構造になっている。道具はなく、麻紐と木屑ばかりが床に転がり、湿った土と埃を被っている。  龍輝は使えそうな木屑を束ねながら、数日前の出来事を思い返していた。  目の前に現れた女は、私達は生きていたと言った。  朧気な記憶から、彼女が誰かは予想出来る。しかし重要なのは、生き残りは何人もいるという事が本当かどうかだ。  誰が生きているかなど考えたくないが、知っておかなければならない。  「十年前」  疑問に答える声は現実からやってきた。  「あなたが直接手にかけた子供だけが生き延びた」  龍輝は黙ったまま、ゆっくりと小屋の入り口に首をまわす。  数日前に出会った女は、右手を腰に据えて立っていた。トタン屋根を通して柔らかくなった日の光が黒銀の髪に触れ、僅かに黄色の 色相を乗せる。  手に持っていた麻紐の束を床に放り投げ、女の方へ体を向き直した。麻紐は弧を描いて落ち、軽い音と共に床の埃を舞い上げる。  「お前以外にあと何人いるんだ、萌葱」  「あら、私の名前覚えてたのね」  萌葱と呼ばれた女は意外そうな表情を浮かべ、意図の読めない笑みを口元に残した。  「だけど、あなたは何人生き残っているかを知る必要なんてないわ」  吐き捨てられた言葉に微かな殺意が灯る。  それを合図に、天井がメキメキと音を立てて割れた。何かが屋根に落ちたわけでもなく、不自然な程ゆっくり落ちて来る破片は萌葱を守るように周囲を取り囲む。  どんな仕掛けか分からないが、萌葱が引き起こしている現象なのは間違いない。  「他の皆の手を煩わせなくても、私が復讐を果たしてやるわ」  龍輝は黙って腰に下げていた狩猟ナイフを手に取り構えた。  「復讐、か。僕にそれを受けるだけの権利があったとはね」  目を細め、口の端を僅かに上げて薄く笑う。その笑みに、ただ腹を空かせた獣が獲物を見つけた時のような単純さではなく、獲物をいたぶりながら殺す悪鬼のような知性を萌葱は見た。
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