第1章 社畜、会社やめる。

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僕に渡されたのは、宝石にしてはかなり大きな赤い石だった。 「見ての通りルビーだが?」 「そんな高価なもの...お借りできません!」 「ああ、"君の世界では"高価なんだろうね?」 (この人...僕が別のところから来たって事...) 「...いつから知っていたんです?」 彼女は毅然とした態度で「ティナが連れて来た時からだ」と告げた。それに同意するようにティナも二度首を縦に動かす。 「ごく稀にね、迷い込んでくるんだよ。違うオーラを纏った異界の人間がね...。 それが君だったのさ。 君に貸したこの宝石は、持つ者の力量によって塵にも宝にもなる。」 状況が飲み込めずにぼーっと師匠の話を聞いていると、ティナが衣装ケースから男性用の服を僕に渡してくれた。 「異界の人間は闇の商人に狙われやすいですからね。危ないので、これに着替えて行ってください」 ティナが渡したのは、全身革でできた防具だった。いかにも旅の始まりを感じされる衣装だ。 「ああ、ありがとう...」 続いてお師匠様が告げる。 「この世界の字など君には読めないだろうに...一度で覚えたまえよ。」 と渡してきたのはメモ書きされた紙っぺらだ。 優しい声の割には威圧感のある人だが、それでも僕の上司に比べたらましだと思う。僕はここで手伝いをすると決心した。 「いいかい?薬草各種2袋ずつ、火炎瓶4本、干し肉、保存食を買って来ておくれ。 出発は明日の朝...。日が落ちるまでに戻っておいで。」 (ホワイト企業だ...) しっかり仕事内容を伝えてくれる上に定時退社とは...こんな会社に勤めたかったとしみじみ感じる。 「わかりました」 と元気に返事をし、今日は病室で休ませてもらう事になった。
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