第1章 社畜、会社やめる。

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もうすっかり暗くなってしまった道を、重い足を引きずるようにして歩く。 (あいつ、今日もうるさかったな...) と思いながら、帰宅路にある本屋にいつものように足を運ぶ。 「ええっと...」 オカルト系の所をうろつき異世界に転生できる方法が書いてある本を探す。 「おっ....これ...」 と手に取ったのは『異世界に行けちゃう!?本当にできる異世界転生!!』 「ありがとうございました!」 胡散臭いなと感じながらもつい買ってしまうのは、散々転生できると書かれた本を買い込んでは実践しているからである。 家に帰ると、昨晩と今朝の洗い物が残っているのが目に入り、さらに憂鬱な気分になってしまう。あの上司が来てから数ヶ月はろくに日常生活をおくれておらず、ただ一つやっていた事と言えば、こういった異世界転生などの現実逃避ばかりだった。 さて、今日はどの方法を試そうかと本を開く。 今まで明晰夢、優待離脱、エレベーター、タットワの技法...etc。全て試したが全て失敗に終わった。 今回もどうせハズレだろうと半ば諦めつつも本を開いて読んでいくと、一つの方法に目が止まった。 (飽きた?) それは5㎝×5㎝の正方形の紙にできるだけ大きく六芒星を書き、その真ん中に「飽きた」と書く。さらに赤い文字で書くと効果絶大、と言った内容である。 正直、あまりにも胡散臭すぎて逆に興味をそそられた。 (飽きたなんてもんじゃない。僕が書くのは...) ペンケースから赤いペンを取り出し、「退職届」と書き殴る。 高校生の頃から憧れだったあの会社は、今ではもう地獄でしかない。いっそのことやめてしまいたいとすら思っていた。 (このまま紙を握って寝ればいいのか。) 起きた時に紙がなくなっていれば成功らしい。 スーツも脱がずに仮眠の体制に入る。 そう、僕はこの世界に..."心から"嫌気がさしていたのだ。
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