第1章 社畜、会社やめる。

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腹部の痛みで目を覚ますと、木製の天井が見えた。 起き上がると同時にベッドの軋む音が鳴る。 「あれ......?」 (確か僕は夢で兎に襲われて...) あの時に助けてくれた女の子の名前は何だったのだろうかと、まだぱっとしない頭で考える。 あの子の先生らしき人物にはこう呼ばれていた... 「ティナ...?」 半分目が覚めた状態で記憶から探った言葉をぼそっと呟く。 「は、はい!?」 拍子抜けた声で女の子は肩をあげながら言う。 「起きたのですね、いきなりあだ名で呼ばれたのでびっくりしちゃいました...」 と、こめかみをかきながら苦笑い。 (初対面の時と喋り方が違うような...) 病室の奥にある部屋に「お師匠様!」とその女の子は呼びかけ、僕が起きた事を報告した。 すると、病室に落ち着いた雰囲気のお姉さんがコツコツとハイヒールの音を鳴らせて入ってきた。 「ようやく、お目覚めかい...」 「は、はい...」 「君、本来なら一日で目覚めるはずなのに、丸三日寝込んでいたから、相当疲れが溜まっていたようだね」 (そりゃサービス残業だの上司への計り知れないほどの気遣いと説教される日々繰り返してりゃ疲れもたまるわ...) と心の中で思いながら、そうだったんですかと答える。 「君もラッキーだねぇ...あの毒牙兎(ポイズンラビット)の毒にやられて命落とすのも多いはずなのに、うちのティナが見つけなきゃ死んでたかもしれないよ。君、ティナに感謝しなさい?」 そう言われてお師匠様と呼ばれる女性から目をそらして、ティナと思わしき少女に目を向ける。 「あの、ありがとうございます。ティナさん」 そう言われると、いえいえと手を振りながら逆にぺこぺこと頭を下げ始める。続けてティナはこう言った。 「困った人を助けるのが、私の仕事ですから」
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