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第1章 社畜、会社やめる。
「す、すみません!」
社内に響き渡るほどの声量で、冴えない男が頭を下げる。
直後、偉そうに腕を組む巨漢が手に持っている書類を投げつけた。
「何度言ったら分かるんだてめぇは!」
再び社内に怒鳴り声が反響する。
このご時世に部下を怒鳴りつけるような上司がいる事自体に驚きつつも必死に謝り倒すこの男は、世間的には所謂"新人"という立場であり、どんなに不満を持とうと上司には逆らえないのであった。
(僕の方が仕事はできるんだけどな...)
はあ、と心の中でひとつ溜息を吐き、まだ怒鳴り散らしている上司の背後に掛けられた時計に視線を移す。
(左遷されたくせに本当偉そうだなあ...)
いつもよりも幾分かゆっくりと動いているように思える秒針が「12」の文字盤を通り過ぎると、定時を知らせる鐘が鳴り響いた。
「ああ、もうこんな時間か。
いいか、明日までに資料を完成させなかったら即刻クビにしてやるからな!?」
「は、はい...!!」
こんな職場にいるのは勘弁だが、自分のせいで他の社員にまで迷惑がかかるのはもっと堪え難い事である。
さっさと帰って行く上司を尻目に、またもや深い溜息を吐きながら渡された資料をまとめて鞄に入れ仕事を持ち帰ることにした。
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