自分に嘘はつけないね

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 仕事に不満はない。成果に対して相応しい報酬を受け取っていると思う。ただ、不満はある。そも、果たして一時として満たされたことがあったろうか。幼い頃、欲しいおもちゃを買って貰えたか? 少し成長して、皆と同じ自転車を買って貰えたか? 更に成長して、好ましいと思った異性と、交際することが出来たか? 高校受験、大学受験、そこは本当に自分が志望した学校か? そこに合格したか? 夢は叶ったか? この世界に生まれてから自分の望み通りになったことが、果たしてどれだけあっただろう。それら全てを不満だと言ってしまうのはあまりに傲慢だと思うし、かといってそれで心が満たされるわけでもない。そうやって生きていく、そういう生き物なんだ、人間と言うのは。  ……と、嘆くだけ嘆いて、気が付くと僕は仕事を終え帰路に着いていた。 家と駅の間には、大きな公園がある。一つ、また一つと公園がなくなっていくなか、奇跡的に生き残っていた。 住宅街ということもあってか、子供からシニアまで四六時中誰かがいる公園。家族の風景、ペットを通じてご近所同士の交流、ベンチで寄り添う恋人達。僕にないものでこの場所は溢れている。満たされている。  今日は寄り添う一組の男女がいるだけだった。出来るだけそちらを見ないようにして、いるはずなのにどうしてもその二人に視線が引き寄せられる。大学生くらいだろうか、幼く見えるが平日のこの時間に私服でいるというのはあまりないように思う。男の方はスポーツでもやっているのか体格が良く、ごつごつとした顔のパーツが実に男らしい。女はそれに対を成すようにおっとりとした顔付きだった。肩口まである髪を時折男が撫でている。     
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