20区、ベルヴィル

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 ジャックにはまだぴんと来なかった。納得していない様子のイグレックを察して、ジャマラディーンは続けた。 「ジャック、この薬は“不死の薬”だが、“死ねなくなる薬”じゃあないんだ」 「どういう意味だ?」 「この薬を飲むと死ななくなる。死ぬような病気も怪我も、老衰もない。まあ、そこそこ元気で生きていられる。でも、もし生きるのがいやになったら、つまり死にたくなったら、自ら死を選ぶことはできるのだそうだ」 「つまり、自殺はできるってことか?」 「おれはその言葉は嫌いだが、ま、そういうことだ。おれは弱い人間だ。生きるのも恐ろしいが、自殺するなんてこともできそうにない。だから、この薬が本物の不死を保証してくれるものだと信じているからこそ、これを飲むことができないでいるんだ」 「いいじゃないか。死にたくなったら死ねるなら、その薬をおれは飲むぞ」 ジャックは言った。
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