モンマルトル、クリシー

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「どれくらいで死ぬ?1時間以内か?」 「そうだな、30分から1時間。1時間はかからない。1時間以内ってのが大事なのか?」 「ああ、捕獲の問題でな」  セキはカフェオレを飲み干すと、ふうっとためいきをついた。 「ジャック、おまえ、顔色悪いな。何かあるのか?」 「いや、別に」 「あの、マサイ族の酋長みたいなやつが引退してから、仕事がなくなって困ってるんじゃないか?」 「ジャマラディーンのことか?なんで彼の引退を知ってる?」 「知らないやつはいないよ。おまえの一番の相棒だったろう?仕事の入りが悪いんじゃないのか?」 「いや、ジャマラディーンが後輩を紹介してくれて、仕事は滞りない。ただ、ジャマラディーンの引退は正直ショックだった」 「ショック?」 「ああ、人間いつまでも元気じゃない。年もとる、疲れもする、おれも疲れを感じて来た」 「顔色悪いしな。病気じゃあないのか?」 「ああ、医者にも行ったが病気じゃない。過労だそうだ」 「ふん、過労か。疲れを治すのは休むしかないぜ。少しはゆっくりしたらどうだ?」 「そうするよ」  しばらく空のカフェオレカップをもてあそんでから、セキは言った。 「じゃ、そろそろ行くよ。くれぐれもアンプルの取り扱いには気をつけて」 「ありがとう。礼は必ずする」  セキは立ち上がり、コートを着て襟をたてた。振り返るとイグレックに言った。 「ジャック・イグレック!自殺なんか考えるなよ。疲れたら休めばいいんだ。テトロドトキシンは頭がはっきりしてるのに、息ができなくなって身体が動かなくなって死ぬ。もし自殺を考えてるなら、もっと楽に死ねる薬を持って来てやる」 振り返ったセキは友人を思いやる優しい笑顔だった。 「誰が自殺に使うなんて言った?大ワニで儲けてお前にたっぷり礼をするさ」  セキはカフェのドアを開けると、来た時と同じようにあっという間に去って行った。吹き込んだ風が凍てつくように冷たかった。
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