被害者

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 騒々しい音を立て、椅子が砕け、破片が飛び散った。  しかし、扉はびくともせず、ただ傷をこしらえただけだった。  「……嘘、だろ」  直秀が壁に寄りかかったまま、ずるずると座りこむ。  「窓を割ろう。怪我するかもしれないけど、脱出できるかも!」  茜は近くの窓を指さした。なんでもいい。とにかくこの館から出たかった。  「たぶんダメだと思いますよ」  しかしいつの間にか追いついた浩二は、うっすら微笑をたたえて首を振った。その手には、大きめな出刃包丁が握られている。こんなものを所持していたのか、という驚きは、全くなかった。  「携帯も不能。扉もなぜか厳重に閉められています。これだけ閉じ込める意思がある中で、どうして窓ガラスが簡単に割れるのでしょうか」  いや、割れるわけがない、と出刃包丁をちらつかせる浩二。どうやらそれで窓ガラスを破ろうと試みたらしい。  「じゃ、じゃあ……私たち、ここから出られないの?」  茜は半ば自分自身に言い聞かせる言葉を吐いた。フッと下半身の力が抜け、そのまま倒れこむ。吐き気に代わり、憂鬱になるくらいの絶望の波が押し寄せてきた。
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