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おそらく、扉は開かない。
ここでようやく、茜は気付いた。
茜たちが訪れたときについていた、扉の傷。
それと、幸人が椅子を打ちつけた際にできたものと、似ているという事実に。
よみがえる、真帆の最期。血染めの廊下。斧をもった、いまだ見たことない男のシルエット。
殺される。
普段経験することのない、強烈な死への意識が、どうしようもない焦りと拒否反応を作り出す。きっと、浩二の提示した噂どおりに、幾人かの人がここに訪れ、閉じ込められ、脱出に失敗したのだ。
そして、一人残らず、斧で惨殺され。
失踪した。
「茜……」
友哉の手が、やさしく茜の肩に乗った。でも、得体のしれない恐怖は消えることなく、ますます増幅していく。無意識に胸に手を当てる。動いている心臓の音が、やけに温かく感じた。
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