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赤い服を着て白い髭をたくわえたぽっちゃりおじさんが、トナカイに引かれたそりの上にいる。
その背後には、大きな袋。
そりは雪原をかけていく。白い雪が舞い上がり、その後ろには轍ができる。
飛べやしない。
そんなことはわかっている。
でも、赤い服と白い髭のぽっちゃりしたおじさんは、トナカイ二頭に引かれたそりで、向こうに走っていくのだ。
大きな袋を引き下げながら。
笑ってしまった。想像したその姿に。クスクスと笑いが込み上げてきた。
「へえ、サンタさん、出発したんだ。がんばってほしいね」
そう言って汐音が私を見上げる。
「どしたの、お母さん?そんなに面白い?」
きょとりと首をかしげた汐音に、私はいけないいけないと首をふる。
「ううん、サンタさんもこんなに早く出発なんて、大変だなあって思って」
クスクスと笑いながらそう言えば、汐音がうなずいた。
「ほんとだね、とっても大変。何かおいしいもの、用意してあげないとだね」
ああ、この子はまだサンタクロースを信じていた。欲しいものがわからないのは、私に聞く余裕がないからか。そう気づいた。同時に、この子はやっぱり優しいのだ、とも。
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