Merry Christmas

8/9
前へ
/9ページ
次へ
  赤い服を着て白い髭をたくわえたぽっちゃりおじさんが、トナカイに引かれたそりの上にいる。  その背後には、大きな袋。  そりは雪原をかけていく。白い雪が舞い上がり、その後ろには轍ができる。  飛べやしない。  そんなことはわかっている。  でも、赤い服と白い髭のぽっちゃりしたおじさんは、トナカイ二頭に引かれたそりで、向こうに走っていくのだ。  大きな袋を引き下げながら。  笑ってしまった。想像したその姿に。クスクスと笑いが込み上げてきた。  「へえ、サンタさん、出発したんだ。がんばってほしいね」 そう言って汐音が私を見上げる。 「どしたの、お母さん?そんなに面白い?」 きょとりと首をかしげた汐音に、私はいけないいけないと首をふる。 「ううん、サンタさんもこんなに早く出発なんて、大変だなあって思って」 クスクスと笑いながらそう言えば、汐音がうなずいた。 「ほんとだね、とっても大変。何かおいしいもの、用意してあげないとだね」 ああ、この子はまだサンタクロースを信じていた。欲しいものがわからないのは、私に聞く余裕がないからか。そう気づいた。同時に、この子はやっぱり優しいのだ、とも。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加