ショートストーリー

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底冷えのする冬の夜 部屋の明かりのスイッチを入れると パッと光が広がって 荒んでいる美保の心の中にまで入ってくる 私は、高望みをしたわけではない ごく普通の恋愛をし ごく普通の結婚を夢みただけ 私は、平凡な女だから 男は最初優しかった 今思えば、女の扱いに慣れていただけのこと それでも、付き合いは順調に進み 私は男との結婚を意識した のどかな田園風景のような やわらかい幸福感に包まれる 私が男と付き合っていることは 社内でも知られていた だから私は、小さな幸せを1枚1枚の写真の中に閉じ込めて、みんなに見せた そうしないと 幸せは逃げてしまいそうだったから 男の言葉がカタク、冷たくなりはじめ 壊れたチャックのように二人の気持ちが噛み合わなくなる それでも私は男のために尽くす 男は時々優しかったから そんなある日、職場の同僚から 男が親会社の社長秘書と付き合っているという噂を聞く 上昇志向の強い男にとって 私は踏み台ですらなかったというのだろうか 男との子供を宿していることがわかり 私は男の意思を確認する 「悪いけど、もう無理なんだよね」 「お前の妙な甲斐甲斐しさが、俺には鬱陶しいだけなんだよ」 子供を堕胎する金は用意するからと言って 男は私の元を去っていった
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