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築き上げた私の恋は
冷徹な男の手によって
一方的に幕を下ろされた
3年分の愛を返して
それは、行き場を失った木霊のように
虚しく響く
同僚の女性の憐みの目と闘いながら
私は、噴火しそうになる怒りのマグマを押さえ込む
男の選んだ「打算」に
私は思いのほか打ちのめされていた
子供は堕胎した
兄が私のところへ遊びにきたのは、何かの偶然だったのだろうか
久し振りに会った兄は、父のようにたくましくなっていた
男との恋愛も、子供を堕胎したことも、家族の誰にも話していない
だが兄は、私の中の揺れ動くものを見逃さなかった
「お前、何か隠しているな」
それでも、私は言うつもりはなかった
でも、兄の真っ直ぐな目に見つめられ、全てを話すことになる
黙って聞いていた兄が、静かに言った
「そんなことがあったのか。美保、辛かったなあ」
それだけで十分であった。私は必死に涙を堪えていた。だから、もうそれ以上言って欲しくなかった。でも、兄は続ける
「俺は、世界中の誰よりもお前のことを分かっているけど、お前ほど心の綺麗なヤツはいない。顔だってよく見れば美人だ。お前の繊細な感性は心を打つ。気配りができるし、親孝行だし、みんなに優しい。いつも一生懸命だし、それに…」
「お兄ちゃん、もういい。ありがとう」
「バカ、止めるな。もっともっといっぱい言ってやる」
「お願い、やめて。恥ずかしいから。それに、“よく見れば”は、余計だし…」
本当は嬉しくてたまらなかったけれど、少し気恥ずかしかった
「なあ、美保、お前が何事にも精一杯頑張っていることは、家族のみんなが知っている。だから敢えて言う。もう、そんなに頑張らなくてもいいよ。今のままで、お前は十分に輝いている。明日を信じて、今日だけ思いっきり泣け」
そう言って、兄は私を強く抱きしめた
両親の代わりの
ぬくもりが兄から伝わってきた
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