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鍵を開けて部屋へ入る。
夫もあの日からここにいた痕跡はない。
出てきた時の状態。
先に夫が外した結婚指輪が
テーブルの上にポツン。
寝室のドレッサーの小引き出しから
自分の結婚指輪を出してきて、
テーブルに置き去られた夫のと並べた。
あの日、夫は
「申し訳ない・・・こんな気持ちは
初めてなんだ・・・一生に一度、
一生一度の恋だから、別れてくれ」
そう言って頭を下げたまま、
指環を外した・・・。
全く女がいる素振りもなく、あの日突然。
しかもその人とは一年になると言った。
私が鈍いのかもしれない・・・
でも夫より神経は繊細だと思う。
ー only you ー
互いの指環に刻まれた文字。
私達・・・少なくとも私は
「一生に一度の恋」
そう信じたから結婚したのだ。
「この人にとって・・・
私はなんだったんだろう?」
指輪を見ていると・・・
あの日に湧かなかった怒りが
フツフツと・・・沸き始めた。
「簡単に人の心が・・・心が、
処分できるっていうの?!」
投げた椅子でテーブルが割れた。
あとはもう・・・歯止めは効かず。
クローゼットも食器棚も椅子を武器に
片っ端から傷つけていく・・・
あの日夫に向けたかった怒りが
6年の思い出の部屋に向かっていく。
汗と涙が飛び散るがお構いなし、
きっと近所は驚いているはず。
食器棚の扉の蝶番が外れてガタン!
床に響いて手が止んだ。
座りこんで口から溢れた・・・、
「二度と恋なんかしない・・・」
ー 了 一
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