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寝ている私の上で声が聞こえる。 それも複数の声だ。 「う~ん、このままだと彼氏とかな。でもさ、あいつってば恋人はクリスマスに一緒に過ごすの当然とか思ってて、ちょっとウザいんだよね」 「わかる~。今どきそんなことないのにね」 彼女たちは、この動物病院の、動物看護師、獣医看護師、獣看護師? と言えばいいか。 いつも仕事中に無駄口を叩いている、元気な娘たちだ。 仕事の鬼である彼女がこの娘たちを見たら、きっと歯を()き出しにして怒鳴りつけるだろうな。 その彼女とは、私の飼い主――荒川靖子のことだ。 今から数年前に彼女に拾われた私は、とある新宿の不動産会社の事務所で飼われることになった。 それから、彼女は会社を辞めて、同僚(どうりょう)たちと広島に(うつ)り住んで定食屋を始めた。 そして、今は都内に戻ってカフェを開き、毎日仕事に没頭(ぼっとう)している。 「ねえ、空いてるなら女子会しよっか?」 「えっ? 大丈夫なの? 今彼氏とって言ったじゃん」 「いいよいいよ、別に。だってさ、今の彼って肉体労働系でパッとしないし、単なる(つな)ぎだから結婚する気とかないし」 ……ないし、ないし。     
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