――

5/9
前へ
/9ページ
次へ
下品な娘二人が帰ったと思ったら、今度は私の担当獣医が部屋に入ってきた。 彼は私に近づくと、優しく頭を()で始める。 「今年のクリスマスはひとりぼっちになりそうだよ……。いわゆるクリぼっちってやつ。ははは……」 獣医は(かわ)いた笑顔で、私に言った。 寂寞(せきばく)とはこのことだな、と私は思わざるを()なかった。 彼は動物病院の戸締りのときに、いつも私に弱音を()いている。 まあ、本人は自覚もないだろうがね。 「なあ、ビアンキ。俺の何がダメなのかな……。収入も安定しているし、ネットで女性受けについて調べてからは、清潔感にも気を付けてるし……。正直、女性が何を考えているのかわからないよ……」 ……いるし、てるし。 その言葉を聞いた私は、また社長が「しーしー言うなよ」と言っていたのを思い出してしまう。 しかし、そんなにクリスマスを独りで過ごすことが苦痛なのか? 私には理解できない。 だが……恋愛というか、少々心配ごとはある。 それは、もちろん自分のことではない。 主人である荒川靖子のことだ。 「じゃあ、もう行くね。あっ、そういえば後で――」 獣医がか細い声で何か言っていたが、心配ごとを思い出した私の耳には入って来なかった。 私の主人――。     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加