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下品な娘二人が帰ったと思ったら、今度は私の担当獣医が部屋に入ってきた。
彼は私に近づくと、優しく頭を撫で始める。
「今年のクリスマスはひとりぼっちになりそうだよ……。いわゆるクリぼっちってやつ。ははは……」
獣医は乾いた笑顔で、私に言った。
寂寞とはこのことだな、と私は思わざるを得なかった。
彼は動物病院の戸締りのときに、いつも私に弱音を吐いている。
まあ、本人は自覚もないだろうがね。
「なあ、ビアンキ。俺の何がダメなのかな……。収入も安定しているし、ネットで女性受けについて調べてからは、清潔感にも気を付けてるし……。正直、女性が何を考えているのかわからないよ……」
……いるし、てるし。
その言葉を聞いた私は、また社長が「しーしー言うなよ」と言っていたのを思い出してしまう。
しかし、そんなにクリスマスを独りで過ごすことが苦痛なのか?
私には理解できない。
だが……恋愛というか、少々心配ごとはある。
それは、もちろん自分のことではない。
主人である荒川靖子のことだ。
「じゃあ、もう行くね。あっ、そういえば後で――」
獣医がか細い声で何か言っていたが、心配ごとを思い出した私の耳には入って来なかった。
私の主人――。
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