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荒川靖子は、口が悪く、乱暴で、おまけに女らしさなどは皆無(かいむ)であり、全くもって素直ではない。 まあ、最近でこそ、男性のようだった髪を長く伸ばしたり、化粧もするようになったり、身近な人間に気を使えるようになったがね。 彼女の顔は、標準よりも美しいほうだと思う。 さらに、掃除もハウスクリーニングのレベルでこなし、料理は定食屋やカフェをやっているだけあって、三つ星レストランのシェフにだって負けない腕を持っている。 靖子の友人たちの言葉を借りれば、かなりの高スペックな物件だ。 おまけに頭の回転も速く、腕っぷしも……。 いや、それはマイナスか……。 人間の(オス)は、頭のいい(メス)と強い(メス)が嫌いだったな。 ……よく考えたら、それ以前の話だった。 彼女はまだ居なくなった社長のことが好きなのだ。 だから、どんなに良い条件の(オス)に言い寄られても、けして(つが)いになったりはしないだろう。 私から見るとだが、靖子の社長に対する気持ちは、恋愛というよりは父親や兄――。 いや、もっと大袈裟に言えばヒトラーを崇拝(すうはい)するナチス信者に近い。 だから、もし社長がまた彼女の前に戻ってきたとしても、その思いが成就(じょうじゅ)することはないだろう。     
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