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「おう、ビアンキ元気か?」
聞き慣れた懐かしい声。
私は誰だと思い、瞑っていた両目を開けるとそこには――。
「寂しがっている思って会いに来てやったぞ」
私の主人――荒川靖子が立っていた。
彼女は持っていた荷物から、プラスチックの容器を出すとその中に入っていたペースト状のものを自分の右手に付け始めた。
そして、そのペースト状のものが付いた手を、私の顔に近づける。
「ちゃんと獣医には許可を取っているからな。遠慮せずに食べろ」
どうやら彼女は、私のためにお湯でふやかしたり、すりつぶしたりして柔らかくした食事を作って来てくれたようだ。
私はそれを舌で舐めていく。
彼女は義手である左腕で、私の頭を撫でながら、右手を舐め続ける私の姿をじっと見ていた。
「寂しい思いをさせてごめんな。でも、あんたが良くなるまでは、大人しくここに居てくれよ」
……寂しい?
私が寂しがっているだと?
ふざけるな、猫の私にそんなことはありえない。
むしろクリスマスムードの中、死にかけの猫に会いに来るお前のような雌のほうが余程寂しいのではないか。
「はい、プレゼントだ」
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