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吾輩(わがはい)は猫である。 名前はまだ無い。 どこで生れたかとんと見当(けんとう)がつかぬ” そんな猫の語りで始まる小説があったな。 しかし、私は……今言って分かるように、自分のことを吾輩などとは言わない。 ちゃんと名前もある。 ビアンキと呼ばれている。 何でもロードバイクのメーカーから取ったとか……まあどうでもいい。 それでも、今の飼い主が名付けてくれるまでは、ずっと名無しだったがね。 はて? 私の生まれは……どこだったか? さっきの引用ではないが、見当がつかぬといった感じだ。 私は今、新宿にある動物病院に入院している。 特に病気とかではないのだが、身体の調子が良くないからだ。 毛がパサつき、ツヤがなくなってきたし、寝ている時間が増え、声をかけられても反応が(にぶ)くなってしまった。 おまけに最近は口が臭いし、ご飯や水もあまり取る気になれない。 さらに、足元がフラついて物にぶつかってしまうときがあったり、爪が伸びるのが早くなったりと――。 典型的な老衰(ろうすい)症状(しょうじょう)だ。 ……私はもう長くはないだろう。 まあ、それなりに悪くない人生だった気がするが……。 「ねえ、二十四、二十五どうする?」     
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