XI.「成就《じょうじゅ》の力《パワー》」

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XI.「成就《じょうじゅ》の力《パワー》」

 小春日和の午後の日差しは、ベンチで微睡(まどろ)むのにちょうど心地が良かった。  三寺夢女(みつでらゆめ)は自分の隣に誰かが座ったのに気づいて、ゆっくり目を開く。そこには溜息をつくスーツ姿の金井信(かないしん)がいて、(ひじ)膝上(ひざうえ)に立てて大きく背中を曲げていた。 「先輩は、今日も就活ですか」 「俺その言葉嫌いだわ」  カレンダーはもう十一月になろうとしている。愛洗大学(あいぜんだいがく)のキャンパスは数日後に控えた学園祭に向け、可愛らしい字が踊るポスターやサークルの部室棟の窓から下がる横断幕が目立って、普段よりもいくらか華やかだ。  そんな中でリクルートスーツを着て落ち込んでいるのは、金井くらいしか見当たらない。 「なあ、三寺。俺ってやっぱ、魅力ないのかな」 「そういうこと、わたしに聞きますか」  夢女は切り(そろ)え損ねた前髪を(もてあそ)びながら、明後日を見上げる。  隣で何度も溜息を吐き出す金井は何社もお断りされた所為か、春よりも(ほお)()けて見えた。中学の頃にはサッカー部のエースだったと得意げに語っていたあの少年のような純粋な瞳も、曇って見える。 「なんかこう、簡単に就職決まる魔法とかないのかね」 「また皆美(みなみ)に占ってもらえばいいじゃないですか」 「あいつにはもう何度もやってもらってるよ。けど佐田(さだ)のタロットって絶対に良いことしか言わないじゃねえか。それでもって最後には”先輩は大丈夫ですよ。笑顔の天使が保証します”って。佐田の保証って、犬猫限定だろ」 「犬猫以下なんですかねえ、金井先輩」 「三寺ぁ?」  奥二重の瞳を向けて、夢女にふざけた鬼の形相を見せる。それがやっぱりおかしくて、いつも彼女は笑ってしまうのだ。
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