白い花

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 ……このままだと身が持たない……。  身を包み込んだ冷気に、室内の暖房は消えていると察しがついた。よもや、私が寝床から抜け出すなんて思いもしなかったのだろう。布団の中に湯たんぽだけを入れて、その他の暖房器具は切ってしまったようだ。  身の危険を感じ取り、身体を捩る。何度かもがいたところで、身体を立て直すことができた。  ホッと息を吐き、顔を上げる。  仕方がない……、布団の中に戻るとするか……。  水を飲むことを諦めて身体を動かせば、フラフラとはするが、立ち上がれることに気がついた。  ふらつく足に力を籠め、一歩前に進む。できた。もう一歩前。倒れない。  ……なんだ……。もう何もできないと思ったが……。まだまだやれるじゃないか。   身体が動いたことで生きる気力が戻った。鼻先を水の匂いが掠める。首を巡らす。水の入った器を見つけることができた。水分補給する。さらに活力が戻った。  起きたついでだ。小用も済ませよう。  年寄りだが、男の矜持ってものがある。動ける間はおむつなど履くものか。  目が見えないので勘を頼りに進むしかなかった。冷気が漂う方へ向かい、手探りをして指がかかる場所を探す。  冷たい空気が私を誘う。自分で扉を開けた感じはしなかったのだが、ぶあっと顔に冷たい風が吹きつけた。外に続く扉を開けることができたようだ。風の冷たさが目に沁み、思わず顔をふるう。  うう、寒い寒い。手早く済ませて、さっさと戻ろう。  身体の弱った私を見かねて、家人は簡易式トイレを設置してくれたのだが、年寄り扱いするのは本当にやめてほしい。私はまだいろいろとやれる。
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