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「絶対に私から話したとは言わないでくださいね」
頑ななまでに、念を押して話してくれたのは、学校や教育関連施設に教材や備品を
卸している業者の方だった。
「どこの小学校に理科室にも人体模型ってあるでしょ?
あれって幾らだと思います」
「幾らでしょ? まあまあの値段はするとは思いますけど」
「あれって、実は1体15万円するんです」
「え~、そんなに」
予想外の値段の高さに驚いてしまった。
「あの人体模型は、文科省の指導で必ず小学校の理科室におかないといけない決まりに
なっているんです、必ずね」
「だとすると、全国に公立、私立の小学校の数って結構あるから、まとまるとかなりの金額になりますね」
そう言うと、業者の男は深く頷いた。
「ええ、ざっとですが、50億円にはなると思います」
「ひぇ~、50億ですか? すごいですね」
「でしょ? そして、その人体模型を作って卸している会社が10社ほどあるんですけど」
「それって利権ですか?」
業者の男の話が終わらないうちに、横槍を入れた。
業者の男は、イエスともノーともわからない曖昧な表情をしながらも、小さく頷いた。
だが、そんな利権に絡む話なんかはどこにでもある話で、冒頭で念を押されないといけないほどの話でも
ないのにと正直思った。
「その事が何か関係するのですか?」
「ええ、実は…」
業者の男は先ほどよりもずっと神妙な面持ちで語り始めた。
「どこの小学校でも、七不思議や怖い話ってのはありますよね。
音楽室に飾ってあるバッハやシューベルトの肖像画が笑うだの、目が動くだの。
音楽室のピアノが深夜誰もいないのに、音がするとかね。
そんな中人体模型が歩くというのも定番のひとつなんですよ」
「ええ、有名な話ですよね」
「別に本当に歩く人体模型があると言う話じゃないんですよ」
「と言うと?」
「本当はね、ああ言う噂になりやすい物をあえて置くことで、本当に隠しておきたいものから
子供達の目を逸らす意味合いもあるんですよ」
業者の男は、最後は早口でそれだけを言った。
本当に隠しておきたいもの、それについては業者の男も知らないと言っていたが、
本当の事はわからない。
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