白紙の翼

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 だいたいみんな高三の夏休みが終わったくらいに発症するんだ。真面目で成績も悪くないのに、プレッシャーに弱い生徒。こういう奴は試験本番直前になって下痢になったりひどいとインフルエンザにかかったりするから、実際受験に失敗する奴も多い。  中島がそういうタイプだとは思っていなかったのに。 「ねえ、センセ」  中島のそのどこかナメたような甘ったるい声が僕の耳朶に絡みついて鼓膜を揺らす。 「大学なんか行っても、なんの役にも立ちゃしないのよ」 「そんなことないぞ。今はお前も若いから正しい判断ができていないんだ。大学は無駄なんかじゃないし、学びは人生で一番大事なんだ。一生学び続ける人間が、いちばん役に立っているんだぞ。大学は楽しいぞ。高校だって楽しいだろうが、大学はもっといい。それに就職だってずっとずっと有利だ。今の時代、高卒じゃろくな仕事に就けないだろう。もったいないと思わないのか中島?」  中島は楽しそうに大きく口を開けて、笑った。  あははは! 朗らかにも聞こえる女の子らしい笑い声が放課後の僕の教室に響き渡る。乱雑に並べた机に椅子に、シャーペンの芯で汚れた床に、降り積もる。 「おっかしいの! クソ教師みたいなこと、言っちゃって」  完全に見下した目で中島が立ち上がった。  もう何年も見慣れた制服。並の容姿の平凡な女子高生。なのに。 「センセ、もっと自由になんなよ。少なくともあたしはそうするわ」  歌うように中島が言う。     
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