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「今日はここまでにしよう。」
すっかりあたりも薄暗くなり、教室には二人しか残っていなかった。
最終下校のチャイムもそろそろ鳴る頃だろう。
教える為に使っていた参考書を閉じ、大毅が一息つく。
「っはぁぁあーーー……。疲れた………………。」
その言葉と同時に全身から力が抜け、机に伏せる恒星。
ぐだぐだと先の進まないやり取りをしながらも、二人はもうかれこれ2時間程机に向かっていた。
「まだ図書館は賑わってるようだな。」
ヘトヘトの状態で片付けを済まして二人は席を立つ。
教室の戸締りをして靴箱へ向かう途中、図書館の窓からまばらな人影が見える。
「外も暗いし一応伊織に声かけをーー」
そう、図書館に足を向けようとする大毅。
恒星は咄嗟に彼の肩を掴むと
「いやいやっ、アイツはどうせクラスメイト達が嫌というほど送ってくるれるだろっ」
半ば無理やりに体の方向を変えさせ、そのまま靴箱の方へ歩かせた。
「む。確かにそうかもしれないな……。」
「そうっ、そうだよ。」
あのまま行くと、下手をすれば恒星、伊織、大毅の3人で帰路を共にする可能性がある。
伊織の事を苦手としている恒星にとっては、それだけは気まず過ぎるからやめて欲しいところだった。
「うむ。この時期は過ごしやすいな。」
校舎を出ると夕陽の反対側では既に月が輝いていた。
「今から寒くなるのか……。勘弁だ…。」
恒星の住むあのボロアパートは悪い意味で風通しが良い。
なので冬は兄弟全員で深夜のか毛布の取り合いが勃発するのである。
「冬も良いじゃないか!風情があるし雪だるまも作れるぞ!!」
歩きながら楽しそうに話す大毅。
「お前も、そんな庶民的な遊びすんのか…。」
金持ち家庭で育っているお坊ちゃんはてっきり外には出ず、寒波とは無縁の温室で優雅に暮らしていると思っていた為、少し意外だと恒星は思う。
「心外だな。僕だって霜柱を踏みに行くし、新雪に飛び込んだりするぞ。」
彼もだいぶ庶民的な冬の楽しみを分かっているらしい。
恒星は少し親近感が湧き、途端に気分が高まった。
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