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11居間での会話
帰宅した後、大毅は意気揚々と風呂に入り、夕飯を食べていた。
「坊ちゃん、今日は一段とご機嫌がいいみたいですねぇ。」
隣で洗濯物を畳んでいたトキが、機嫌の良い大毅の様子に触れる。
「そうなんですっ!今日は友人に勉強をおしえまして……!!やはり彼の成長からは僕も学ぶ事が沢山ありますっ!」
僕も頑張らねばと、キラキラした表情で嬉しそうに恒星の事を語る大毅。
それをトキはとても微笑ましく見ていた。
「おやまぁ、その友人というのは、また彼の事ですか?」
「あぁ、はい!!最初は僕の言う事なんて聞く耳を持たなかった不良でしたが、最近は彼の良い所を沢山発見でき、感激です!!」
恒星同様、大毅も彼の話を持ち帰り、度々トキに話していた。
大毅の母は幼い頃離婚しており、父はいつも書斎で仕事をしている為、
家で彼の話を親身に聞いてくれるのは、トキや他の使用人たちだけだった。
なので、トキは彼にとって母親代わりと言ってもいい存在だった。
「遅れてしまい申し訳ありません。ただいま帰宅いたしました。」
居間の襖を開ける音がした。
そしてそこからセーラー服のまま正座をする伊織が、申し訳なさそうにお辞儀をした。
恐らく、だいぶクラスメイトとの勉強会が長引いたのであろう、その表情はどこか疲れているようにさえ見える。
「使用人としてこの家に置いてもらえているにも関わらず、大毅様よりも帰りが遅くなってしまうとは……。」
土下座のせんばかりの勢いで陳謝する彼女。
その余りにも重い物言いに大毅は慌ててフォローに入った。
「いやいやっ!君が放課後図書館で皆に勉強を教えているのは知っていたぞ!!寧ろ僕は君が博識なんだととても感心したよ……!」
長時間大勢の相手をしていた事を分かっている大毅は、逆にこちらが申し訳ないからと、顔を上げるように頼む。
隣のトキも特に怒っている様子はなく、むしろ彼女の疲れた様子を心配している様だった。
「それに君は使用人の前に家族なんだ、そんなに気を使わなくても良い。」
「そうですよ、ほら、夕食の準備をしますから、ゆっくりお風呂に入ってきてらっしゃい。」
使用人は全員家族の一員であり大切にしろと、大毅は父から言われておりその教えを彼自身とても大切にしていた。
彼とトキの優しさに触れ、伊織は一瞬戸惑う様に瞳を揺らした後
「徳田家の皆さんは、本当に優しいんですね……。ありがとうございます…。」
と、しみじみに感謝の意を述べられた。
その感動が、いかに彼女が今まで酷い環境で暮らしていたのかを物語っている様で、
トキと大毅はお互いに顔を見合わせると、
「当然の事だ。」
「私達家族なんですからね。」
そう、微笑みかけるのであった。
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