12裏庭での自覚

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「ふふっ、美味しさならこっちも負けていないがな。」 散々鬱陶しいと思っていた大毅の事を、心の隅では放って置けない自分がいた。 入学当初は本当に嫌いだったし、存在自体が邪魔で仕方なかった。 だが、彼と接しているうちに、 彼が他の大人達とは違い、外見だけで頭ごなしに叱っているわけではなく、 中身からちゃんと恒星に向き合おうとしている事を知って、彼への見方が若干変わってきたのだ。 彼を見て顔を顰めたり、ため息を吐いたりするが、今ではそのやり取りでさえ本当はどこか楽しいとさえ思っている。 「俺、家族以外でこんなに俺の事気にかけてくれるやつなんて初めてだよ。」 ぽつり、言うはずじゃなかった心の声が漏れる。 突然の独白に一瞬きょとんとする大毅。 しまった、恥ずかしい事をしてしまったと、恒星はすぐさま発言を撤回しようとするが 「人間は、最初から悪い人なんて居ないからな。真正面からその人と対話すれば、きっと良い方向に行くと思ってるんだ。」 じっと、透き通るような目で、大毅は恒星を見つめた。 彼のその確固たる意思がその真っ直ぐな視線からうかがえる。 恒星はその目に吸い寄せられるようにして、彼から目が離せないままでいた。 「それに、僕は君の良い所も沢山知っている。僕が危ない時は助けてくれたし、借りたものはしっかり返してくれる。言う事を聞かないのはダメな所だが、本当にやってはいけない事は絶対に犯したりしない。」 僕は、そんな君の良き所をもっと皆んなに知ってほしいんだ。 ふにゃり、 少しだけ照れ臭そうに、それでも真っ直ぐな目は見つめたまま。 彼は優しく笑う。 それを見て、恒星の胸がどきりと甘く高鳴った。 「あっ……ありがとうな……。大毅。」 「勿論だ。生徒一人一人を正し、風紀を整えるのが僕の仕事だからなっ。」 『こうせー恋しちゃうの……!?』 恒星の頭の中で、今朝の安曇がそう喋った。 あれは確か、占いで俺が一位を取ったからだったか……。 恒星の中で、今までなんと呼べば分からなかったこの気持ちが、一体何なのか やっと、分かったような気がした。 「あっ、櫻井くん。口の周りにケチャップが付いてるぞ。」 呆然とする恒星の口を、大毅がサッと拭く。 その彼のハンカチの色は、水色だった。
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