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「おい、そろそろチャイム鳴るぞ。」
近くの時計は休み時間終了の時刻を指していた。
自身にとってはどうでも良い事なのだか、目の前の彼は違う。
成績優秀、文武両道、容姿端麗、絶対正義。
そんな彼が授業に遅刻なんて、
例え車に轢かれたとしてもありえないだろう。
「おい......!授業始まるって!」
「怪我人よりも授業を優先するほど僕は学に困っていなくてな。」
彼はその相変わらずの頑固さで、それでも尚、肩を組んでいる。
恒星は人に頼るのに慣れていない所為で、暫くは戸惑った。
「.....喧嘩したんだよ。上級生と。」
「知っている。見てたからな。」
「じゃあ、なんでこんな事すんだよ.....!」
大輝は足を止めると、じっと恒星の目を見た。
「その前に、彼らが下級生を虐めているのを見たからだ。」
どきり
変な鼓動が恒星の身体を動かした。
彼の視線はいつも真っ直ぐに人を射抜いている。
同じ視界。
同じ光を受けている筈なのに。
「君は、正しい事をしたんだ。怒る必要はないだろう。」
正しい事をしたかった訳では無かった。
ただ、気に食わなかっただけ。
「それに.......」
大輝は少し間を置くと、バツが悪そうな顔をし、
「あの時の.....借りがあるからな。」
あの時、とは屋上での出来事である。
「あぁ.......」
まさか本当に返す気でいたのかと、恒星は少し笑った。
「なんだ、何故笑ってる。」
「いや、何でも。」
再び歩き出す二人。
恒星は、少し、ほんの少しだけ彼ぐらいは信じても良いかなと。
不思議な感情の中でそう思った。
授業開始のチャイムが、渡り廊下を包む。
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