3人が本棚に入れています
本棚に追加
間違えた。でも何を間違えたのか、わからない。ただ自分だけでなく、矢田さんも傷つけてしまったことはわかった。彼女が傷つくなんて思いもしなかった。そんなつもりはなかったのに。
*
夏が終わって、九月(セプテンバー)になった。
大学のクラスメイトには、アパートに誘われたのに断るなんてもったいない、一人暮らしの女の子が男を部屋に入れるのはエッチOKのサインだぜ、と言われた。なんと的外れな。矢田さんはそんな子じゃない。
彼女がどんな女だとか、あの時何を考えていたのかとか、そんなことをどれだけ考えてみても、結局わからない。ただ自分のことはわかる。セックスOKのサインが出ていたとしても、僕はアパートに行かなかっただろう。
何がどう間違ったのか、今もわからないが、僕と彼女がつき合うという可能性は、どこかにあったのだろう。しかし、そんな自分が想像できない。
彼女が好きで、自分の秘めた思いを話せる相手を心から求めている、それは嘘じゃないのに……そういう人が現れると、あまのじゃくのように逃げたくなる。疑い、恐れ、無知、何であれ、湧いてくるネガティブな感情は、「好きなのに」ではなく、「好きだから」こそだという矛盾に気づいてしまった。
今は失恋で辛くとも、時が経てば、僕はまた別の女の子を、犬のように好きになる。しかし、その思いは決して叶うことなく、万が一、叶いそうになっても自分でぶち壊してしまうだろう。
そう思うと、全てがばかばかしかった。自分が信じられない。何を求めて生きるのか。どうとでもなれ。僕は魂の芯棒のようなものを失い、漂うように生きた。
それから僕は、高校の同窓会に一度も出ることはなく、矢田さんと会うこともなかった。何年も後に、同窓会名簿で彼女が結婚したことを知った。
その頃には、男も少女漫画を当たり前のように読む時代になっていた。
あの時、彼女に借りた漫画は、新刊が出るたびに買って最終回まで読んだ。数十年を経て、その漫画は今も、僕の書棚に並んでいる。
(FIN)
最初のコメントを投稿しよう!