第一章 居合い道

2/10
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 私立北洋学園高等学校…。都会の某区に所在する、創立100年を越える有名男子校である。 ここに、その通学途中の一人の男子生徒がいる。海東岳(かいとうがく)、高校一年生。先月の5月で16歳になったばかりだ。  入学して早1ヶ月以上が経ち、どうにか学園生活にも慣れてきている。いつも使う電車も、どの車両ならちょっと空いている等探す余裕も出てきた今日この頃だ。 「やべー。そろそろバイト探さないとな…」 などと、吊革につかまって考え事をしていると、同じ学園の上級生らしき数人が停車駅から乗り込んできた。  初めて見る顔ぶれだった。 「そういえば、そろそろヤツが帰ってくる頃じゃねーか、(ごう)?」  ブレザーとその下のカッターシャツを着崩した、眼光の鋭い背の高い男。そしてもう一人は、頭をスキンヘッドにした、傷だらけの顔の男。 「…らしいな。“例のコト”が起きたときにはド肝を抜かれたがな…」 「あんなコトぐらいで凹むかよ、あいつが…。どうせいつものとおりボケっとした調子でいるんだろうよ」 ……人は見た目で判断するな、とはいうが、この二人、どう見ても武闘派にしか見えない。 (うちの学園にこんな人たちもいたんだな…) そう思いながら、岳は二人の会話をなんとなく聞いてしまっていた。 「ま、左目までイッちまったと思ったけど、眼ン球は無事だったらしいし、失明は間逃れたようだからな。ハクのついたツラにはなったろうよ…」 (…左目が失明ギリギリ?なんだか凄い会話だな。あまりこの人たちの傍にいないほうがいいのかな…?)  そう感じた岳は、さりげなく車両を移動した。それでも、彼の記憶のなかには、二人の会話に登場した『そろそろ帰ってくる、左目を負傷した男』の存在がなかなか消えることはなかったのである…。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!