第一章 居合い道

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 午前中の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴ると、岳のそばにクラスメイトの神山保(かみやまたもつ)小川鉄二(おがわてつじ)が雪崩のような勢いで駆け寄ってきた。その勢いで二人は必死に岳を拝み倒し始めたのだ。 「なっ!な!頼む。オレ、どうしても同じ中学の先輩から岳をスカウトして来いって頼まれてんだよー」 「だめだめー!オレはバイトを始めるつもりだし、部活なんてやってる余裕なんて…」 「部活の後にバイトすりゃいいじゃん?夜の方が時給絶対高いし?なんなら、オレの知ってるカラオケ屋のバイト紹介してやっからさー」 「深夜は未成年は風営法でアウトだよ。カラオケ屋も同じ!!」  部活には全く興味ない…といった様子で岳は二人をあしらっている。 「そんなこと言うなよ。うちさ、インターハイとか常連校なんだぜ?今はちょっと左目を怪我して休学になってるけど、主将の影山さんなんて、ガチでカッコイイし…」 え…?  今朝、電車の中で武闘派の上級生が話していた内容と、保と鉄二の話が偶然一致したことが、岳には何かの暗示のように気になった。 「……そんなに言うのなら、見学ぐらい行ってもいいけど…。でも、その部活、一体何なんだよ?」  岳のやや軟化した態度に、保と鉄二は互いに「やった!」とハイタッチしながら、ニコニコと同時に答えていた。 「居合いだよ」 ****************  北洋学園の創始者であった高木剣持氏は、各古武術を取り入れ、精神鍛錬や学問に対しての姿勢を養う目的でかなりその部に積極的に力を入れていた。なかでも日本刀(真剣)を用いて形に則った真剣操法を会得する武道である抜刀道部門で、この学園はインターハイの常連校であるのだ。 「…知らなかった」  岳は保と鉄二に連れられ、さっそく道場を見学させてもらうこととなったのだった。
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