小説家さんとはじめてのライブ

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「あぁ、菜奈村さんこっちです」  いつも大河さんと会っている公園。けれど今日ここで会う約束をしているのは菜奈村さんで、時間もまだ午前中。  公園の入り口に現れた黄色に近い金髪にそう手を振ると彼がおぅ、と手を挙げてこちらに歩いてくる。 「あんた、会って話したいだけならあんな大げさなメール送らないでくれよ」 「大げさ、ですか?」  別に、ふつうのメールだったと思うのだけれど何かおかしかっただろうか。と昨晩送ったメールの内容を思い出そうとしながらそう言葉を繰り返すと彼がどかっとベンチに座る。 「お疲れさまです。からはじまって、恐縮ですがお願いしたいことがあるのですが、なんて続いたら金貸してくれって言われるのかと思うだろ?」 「そう、ですか?」  庵さんにも同じようなメールを今までずっと送っているけれどそんなことを言われたことは一度も無いのだけれど、価値観の違いだろうか?と考えていると 「次からは、話したいことあんだけどヒマ?でいいから」  と呆れた様子で言われてしまう。 「ヤンキーですか?」 「これくらいでヤンキーとか言わないから」  そうなのか。今時の子は口調がラフなんだなぁ。  ひとつ勉強になった。と思いながら手に取ったのは自分の横に置いておいた紙袋。 「昨日、多めにクッキーを焼いたのでお裾分けです。えぇと、クロ先輩?さんの分も入っているのでみなさんで召し上がってください」 「あぁ、ありがと。なんか貰ってばっかで悪いな」  菜奈村さんは中身が気になるのかそう言いながら紙袋を開けて中をのぞいておぉ、クッキーだ。と何のひねりもない感想を漏らす。 「いえ、それでは足りないかもしれませんが先日お世話になったお礼だとでも思って遠慮なくお納めください」 「え?」 「えってほら、一緒に迫田くんのところに行ってくださったじゃないですか。たった二日前のことを忘れないでください」  あんな大きな出来事を忘れるなんて、とぽかんとした顔でこちらを振り向いた彼に食ってかかるように言うと彼はいやいや、と手を横に振る。
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