小説家さんとはじめてのライブ

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「忘れてたんじゃなくて、いちいち大げさなんだって。そういう表現されたらあれ、俺、絶体絶命のピンチにさっとヒーローみたいに現れたんだっけ?って思っちまうじゃねぇか」 「そうですか?」  というか、今のその例えは何なんだろう。 「当たり前だろ?何だよさっきのしゃべり方、仕事中かよ」  彼に笑ってそう言われて、高校生のころ比較的明るいクラスメイトに菅乃って他人行儀だよな。と言われたのを思い出す。 「たぶん、子どものころはこんな口調では無かったと思うんですが、友達もろくにいませんし気付いたらラフなしゃべり方ができなくなってしまって」 「あんたの書く本に出てくる登場人物みんなそのしゃべり方って訳じゃねぇんだろ?」 「それは、そうですが。この性格で、例えば菜奈村さんのような口調でしゃべるのはおかしいじゃないですか」 「ふぅん、つまり自分とはこうだっていう枠が決まっててそれからズレないように生きてるって訳か」 「そんな面白そうに人の性格を分析しなくていいんですよ」  望んでもいないのに精神鑑定をしているかのようなことを言われて気持ちがいい人なんている訳がない。角が立たないよう呆れた様子でそう言うと菜奈村さんはわざとらしく肩をすくめる。 「口に出すか出さないかの違いだけで、大河だって人のことよく値踏みしてるだろ」 「それは、その」  昨日のことが無ければ菜奈村さんの言葉をそんなことはない。とハッキリ否定できていたと思う。  けれど、そう言い淀んで頭をよぎったのは大河さんに言われた『フミさんはね、自分でも蓋をしてるぐちゃぐちゃでどろどろな部分を人に見せるのがイヤなんだよ』という言葉で。 「心当たりありってことか」  そう言ってニヤリと笑われる。 「私はそんな話をしに来たんじゃないんです」  からかわれているということに気付いてそう話を断ち切り、彼を呼びだした本題に入ろうとするがその前に菜奈村さんが 「あぁ、そうだ」  と言いながらポケットから折り畳まれた紙を取り出してそれを渡してくる。 「え、あぁ、拝見します」  反射的にそれを受け取ってしまい、受け取ってしまったからには中を確認しない訳にもいかずそれを広げるとそこには見覚えのあるインターネットのページが印刷されていた。
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