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「いつかちゃんと声を聞かせてくれよ」
亮次はまた坊の頭を柔らかく撫でて、今度は自分からその手を握った。
ぽつぽつと雨が降り出したので、亮次は坊の手を引いて駅前の商店街まで早足で行くと、坊のために小さな黄色い傘を買った。
驚いたことに、坊は傘の使い方を知らなかった。亮次が傘を開き、柄を握らせてやると、坊は不思議そうに傘の内側を眺めた。
「そうだ。そうすれば濡れないだろう?」
傘の中から坊が亮次を見上げる。
黄色い傘を差した坊は、とても絵になり、とても可愛かった。
「傘はおまえを雨から守ってくれるんだ」
坊が亮次の分はないのかと目で問うている気がした。
「俺はいいんだ。大した雨じゃないし。家にもあるからな」
それでも坊が動こうとしないので、亮次は仕方なくもう一本、自分用にビニール傘を買った。さすがに坊の傘に一緒に入るのは恥ずかしかったし、第一身長が違い過ぎるので並んで入っても坊が濡れてしまうだろう。
亮次が傘をさすと、坊は満足そうにちいさな息を吐き出した。そんな仕草が可愛くて、また自然と頬が緩んでしまう。
坊と出逢ってから、亮次はずいぶんと笑うことを思い出したような気がした。
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