第三章 兄貴の花

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 交番の巡査からは、坊のことを役所にも相談するように言われていたが、坊と一緒に過ごすうちになんだか彼を離しがたくなり、相談に行く日を、どんどん先延ばしにしてしまっていた。  だがこのところ亮次は頻繁に誰かの視線を感じるようになっていた。坊と夜の散歩をしている時も、誰かにつけられているような気がして振り返ることもあり、不安を覚えることがたびたびあった。  もしかして坊を保護したことで、知らぬ間に、なにか良からぬことに巻き込まれているのだろうか。  気のせいならいいのだが、何かあってからでは遅い。昼間の仕事は仕方ないとして、亮次は念のため夜の警備のバイトをしばらく休むことにした。   夕方もなるべく早くに帰宅し、坊のそばにいるようにしている。  亮次のアパートは、私鉄の最寄り駅から歩いて十分ほどのところにある。細い道が入り組む、寂しげな町の一角に建つそのアパートは、築年数も古く、外壁もくすんでいて、見るからに侘しい住まいだ。  けれど今その中に坊がいるのだと思うと、この建物自体が、なにか温かくて優しいものに包まれているような気がするのが不思議だった。
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