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今のアパートへ越したのはこの花のためだ。家賃は少しだけ上がったが、ささやかながら庭がついているのが決め手になった。
通りから一番奥まった角部屋で、花を植えていることを見咎められることもない。
亮次がもの思いにふけっていると、坊はいつのまにか亮次の膝から降りて、ハナニラのそばにしゃがみ込んでいた。
亮次も庭におりて坊の脇にしゃがみ込み、坊の手を取って、ハナニラの花びらに触れさせた。
「ひんやりして気持ちいいだろ。毎年こうやって頑張って咲いてくれるんだ。兄貴の花だ」
坊は亮次が手を離しても、花びらをそっと摘まんで熱心に見ていた。
「これからはこいつの世話をするのはおまえだ。この花は替えが利かないんだからな。絶対枯らすなよ?」
本当は放っておいても問題ないくらい強い花だが、そう言えば坊がずっと傍にいてくれるような気がした。
けれど本当は判っている。こんな時間がいつまでも続くわけがないということを。
「――おまえもいつか、月へ帰っちまうのか」
可愛い頭を撫でると、胸の奥を切ないような痛みが過った。
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