第三章 兄貴の花

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「悪い、朝早く。坊が熱出したんだ。今日はちょっと休めなくて、美里、今日仕事か」 『ううん、今日は定休日だから大丈夫だよ。すぐに行く。坊は大丈夫? 熱高いの?』  亮次はホッとしながら坊の状態を伝えた。 「まだ薬局やってないから薬買えなかったんだ。熱が上がるようだったら何か買ってきて飲ませてやってくれないか。金は後で払う」 『わかった。様子見てあんまり高くなるようだったら飲ませてみるよ。でも薬のアレルギーとかあったら大変だから、なるべく汗かかせて、水分取らせてあげる方がいいかも』 「助かる。頼んだ。俺はもう出なきゃいけないから鍵はポストの中に入れておく」 『わかった。……なんか嬉しいな』 「え?」 『初めてでしょ、亮次が私に何か頼みごとするの』 「……そうだったか」 『とにかく心配しないで、あとは任せてよ。でもなるべく早く帰ってきてあげてね。坊が寂しがるから』  亮次は分かった、と短く告げて電話を切ると、急いで身支度を整え、布団に横たわる坊のそばに跪いた。 「美里がすぐに来てくれるから、それまでおとなしく寝てるんだぞ」  頭をそっと撫でると、坊は布団から弱々しく手を出して、亮次のジャケットの袖口を掴んだ。大きな目が熱に濁るのが可哀そうで、亮次は思わず額を坊の額にくっつけて元気づけるように言った。 「大丈夫だ。終わったらすぐ帰ってくるから。ちゃんと寝て、早く熱を下げるんだぞ」  それから坊の手を布団の中に戻し、すがるような目に後ろ髪を引かれながら、亮次は部屋を出た。
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