第三章 兄貴の花

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 休憩時間に美里に電話で坊の様子を聞きながら、慌ただしい時間を過ごし、六時で仕事をあがると、亮次は急いでアパートへと帰った。  鍵を置いて行ったのでチャイムを鳴らすと、美里が出てきてシッと指を口許に当てた。 「今寝てるから」 「熱は?」 「だいぶ下がったよ。いちおう薬持って来たけど、飲まないでも大丈夫みたい」 「そうか。ありがとう」  慌ただしく靴を脱ぐと、亮次はまっすぐに坊の眠る布団へと向かった。今夜は花冷えの寒い夜だったが、部屋のなかは暖かく、朝よりもずっと穏やかな顔で眠っている坊を見て、亮次はようやくホッと息をついた。 「今日は悪かったな。せっかくの休みだったのに」 「ぜんぜん、坊の可愛い寝顔見られて役得だったよ。裸も見れちゃったし」 「は?」  亮次がバッと振り向くと、美里はニコッと笑ってキッチンで鍋に火をかけた。 「坊のために野菜スープ作ったんだけど、亮次も食べる?」 「ああ……、いや、どういうことだよ、裸って」 「着替えさせたから。汗かいてたし、そのままにしてたら余計風邪引くでしょ」  美里が事もなげに言うのを、亮次は苦い顔で見つめた。他意はないのだし、美里が看病のために坊を着替えさせるくらい、何の問題もないはずなのに、何故だかムッとしてしまう。
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