第三章 兄貴の花

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「だけど、ほんとに綺麗な子だよね。色白いし、目なんか大きくて吸い込まれそう」  美里がスープを皿によそいながらしみじみと言う。  確かに坊はとても整った顔をしていた。身体も、華奢ではあるが腕や脚は長く、全体的にバランスの取れた、とても美しい姿をしている。  手の形も綺麗だった。細い指の先に、桜色の爪が可愛らしく並んでいるのを、亮次はいつも愛でるような気持ちで見ているのだ。 「髪もちょっと伸びたよね。もう少し伸びたら、きっともっと可愛くなるよ。そしたら私がカットしてあげる。みんな振り返ると思うな」  亮次はムッとして、脱いだジャケットを乱暴にハンガーに掛ける。 「ダメだ。坊は坊主のままでいい」  亮次の言葉に美里が吹き出した。それがあまりにも分かり易い独占欲だと、気付いていないのは亮次だけだ。 「亮次がそんなに誰かに執着するなんて、ほんとに珍しいよね」 「執着って、俺は別に……、」  美里はスープ皿をテーブルに置きながら、呆れたように笑った。 「自分で気づいてないの? もう何日も経つのに役所にも相談してないし、熱出したらこうやって私にあの子を見てるように頼むし、あの子のために料理したり、布団買ったり。しかもその買った布団は、ナチュラルに一組だし」  美里のからかう声に、亮次はしばし絶句する。 「でも、私はいいことだと思うな、すごく」  美里は口許に笑みを残したまま、優しい目で亮次を見た。 (執着……? この俺が、あの坊に?)  亮次は言われたことに驚きながらも、美里の言葉を否定できるような事実が何ひとつないことに気付く。
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