第四章 笑えよ、坊…じゃないと俺は……

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 美里が言ったことについて、亮次はそのあともずっと考えていたが、坊の身元が判ったり、施設で保護されることになったりしたら、もうこれまでのように坊といられなくなるのだと思うと、なかなか行動に移せなかった。  「わー外ヤバイですよー、急にめちゃくちゃ降ってきた。やっぱバスで来れば良かったなー」  客を送り出して戻ってきた女性スタッフの内田(うちだ)が、濡れたユニフォームの袖を拭いながらスタッフルームに入って来た。 「加賀見さんもバイクですよね。帰り無理かもしれないですよ」 「マジかよ」  休憩中だった亮次は、窓の外を見て顔をしかめた。かなりの土砂降りだ。そのとき遠くで雷の音が鳴った。 「ひゃー、雷だ。怖いよマジで。やっぱ迎えに来てもらおー」  内田が大げさに身を竦めながら、携帯をいじり始める。  亮次はアパートにいる坊のことをすぐに考えた。独りで大丈夫だろうか。雷を怖がるんじゃないだろうか。そう考えると落ち着かず、ひたすら勤務時間が早く終わることを祈った。
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